淳師匠が浅草東洋館に出演されている頃、楽屋は決まって舞台下手の脇にある小さな“太鼓部屋”と呼ばれるところを使ってらっしゃいました。
“太鼓部屋”に居ると舞台でのやりとりは全て耳に飛ぼ込んで来ます。
なので出番が終わって楽屋に挨拶回りに行くと…「受けてたねぇ」「前より良くなって来たね」とか、逆に「今日は(お客さんが)重そうだね」なんて調子で、何かしら師匠から声を掛けられることも少なくありません。
今から遡ること10年くらい前の話でしょうか…私が淳師匠と2人、楽屋で雑談していたことがありました。
ふと、舞台上で本番中の後輩の漫才師のやりとりが耳に入って来ました。
受けてない訳ではないが、そこまで笑いが膨らんでる訳でもなく…良く言えば“もうひと息”、悪く言えば“盛り上がり切らない”感じでした。
舞台上でのやりとりが終わり、出囃子が流れました。
それからしばし…先程、舞台上で漫才を披露していた後輩漫才師が“太鼓部屋”に挨拶に来ました。
「お先勉強させて頂きました」
「お疲れさん」
…淳師匠の口調はいつだって穏やか。
しかしながら、その後…珍しく、淳師匠から先程の舞台でのやりとりに対する一言がありました。
「ツッコミが先に一言言ってさ、その後ボケが(ツッコミが言ったことと)同じこと(内容)言ったら勿体ないよ」
…えっ?
私は淳師匠が珍しくアドバイスをされているのを目のあたりにして、かなりビックリしました。
淳師匠は続けて…
「ツッコミが先に一言言ったら、ボケはそれを振りにしてボケなきゃ」
…さすが!
私には淳師匠の仰ってることが良く理解出来ましたし、淳師匠のそのアドバイスを出来ていたなら…間違いなく笑いの量は増えてましたし、次への導線ももっと軽くなっていたと思います。
そして大事なのは…言われたその芸人さん。
ボケ担当の人は、淳師匠のその一言に対してこう返しました。
「そうですかねぇ。ちゃんと返せてたと思いますが」
……。
淳師匠はそれきりでアドバイスを続けることはありませんでした。。。
一方のツッコミの人は「有難うございます」と一言。
その表情は納得した表情をしていたように見えました。
このやりとり、皆さんはどう思いますか?
2023年10月3日