一度だけひろし師匠と楽屋で2人きりになったことがありまして、出番が先の僕はひろし師匠にご挨拶。
「ひろし師匠」
あれ?動かない。
「ひろし師匠!」
やはり動かない。
「お先に勉強させて頂きます!」
すると…
「行ってらっしゃい」
…良かったぁ、何故か安堵する私。。。
まぁ、『明日のジョー』があるまいし、楽屋で座ったままで…なんてことはさすがにないでしょうが、それくらい生体反応が感じられなかった。
恐らくアイドリングストップを開発した人はひろし師匠を見て閃いたんじゃないか?というくらい、すぅーっと気配を消すその佇まい…この“無”を作り出すことで醸し出す存在感…もう若手がどう逆立ちしても敵わない芸当です。
そう、そこが…“芸”なんです。
楽屋のこの話はただただ脱力されてただけだと思うのですが、ステージ上のひろし師匠は…それとは全く違う。
絶妙な表情、絶妙な立ち姿はまさに“無形文化財”の域でした。
立ち方一つでお客さんの反応は変わって来るし、その表情もブレがないのでお客さんは没入するのです。
そんなの若手が真似しようったって出来る訳がないんです。
ひろし師匠は熟成を超えて、その“枯れ具合”が何とも言えない味わいを醸し出していた方でした。
そしてその“枯れ具合”は…味わい深い喋り方にも言えます。
独特な間、トーン、それはそれはもう、喋るだけで観てる人の心を躍らせるだけの魅力を携えていらっしゃいました。
たっぷりとした間なんです、それをせっかちっぽいイメージがあった順子師匠ですが、実はしっかり待ってから話を受けるのです♪
“息の合った”とはまさにそういうこと、お二人のキャラクターが両極端で、でもその裏にはお互いが引き立つための絶妙なパワーバランスがあって、その妙が観てる人を楽しませるだけの魅力で溢れている…あした順子・ひろし師匠の漫才はまさに唯一無二の漫才師でした。
2023年11月15日