「君はさっきから何をやってるんだ?」
んん??
最初はよく分かりませんでした。
その言葉の主は…昭和こいる師匠。
その表情や声色は明らかに怒気をはらんだものでした。
あっ、演芸にあまり詳しくない方に向けて説明しておこう。
昭和こいる師匠は相方の昭和のいる師匠と“昭和のいる・こいる”というコンビを組んでいた方でした。
のいる師匠が語っている所にのいる師匠が「ハイハイ」「そうかいそうかい」「そりゃ大変だ」といった調子で話を聞いてるのかどうかも定かじゃないような適当に相槌を打つやりとりのコントラストにお客さんは大爆笑。
『笑点』を始めとした様々な演芸番組や演芸番組で活躍した、東京の看板漫才師だったんですが…昭和こいる師匠が2021年12月30日にお亡くなりになり、昭和のいる・こいるは漫才師としての活動に幕を閉じることになりました。
舞台上でのお姿はとにかくご陽気、ちゃらんぽらん、細かいことは気にしない、といったキャラクターだったこいる師匠。
そんなこいる師匠が…舞台上では決して見せない、とても厳しい表情で澱むことなく私に言葉をぶつけ続けます。
「さっきからずっと楽しそうにはしゃいでるけどさ、君は煙草の灰皿を変えようとしたり、飲み物がなくなったら注文聞いたりとか、しようと思わないのか?」
ふと灰皿に目をやると…そこには吸い殻がうず高く積もった灰皿が山のようになっていました。
その脇にあるグラスは氷だけになっていて、その時間の経過を物語るように…グラスの周りについている水滴は大粒になり、流れ落ちているような状況。
こいる師匠のお叱りの言葉は恐らく10分以上続いたように思います。
こいる師匠は決して感情を露わにして怒鳴り散らすような方ではないので…その宴席は静かになることはなく、何となく〔こいる師匠が木曽に怒っているな〕という雰囲気程度、その喧噪はそこまで冷えることなく続いていたように思います。
そんな中、まるで別室に居るかのようなこいる師匠と私。
こいる師匠のお小言が長く続いたのは、私があまりに配慮が行き届かなかったこと以外に…今思い返すと、もう1つの理由があったんじゃないかと思っています。
2023年07月11日